「介護」身体拘束とゼロ目指すために覚えておくべきポイント

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危険予測や状況の判断が難しい認知症などの方に適切な介護や治療を受けてもらうことが難しいケースの際にミトンや四肢を抑制といった身体拘束の手段をとっている現場は少なからず現在もあります。

この記事では主に身体拘束に関して疑問に思っている方や現場の人に向けて、主に介護現場での身体拘束とはどのようなものがあたるのかとともに、やむを得ずされるパターンや行うことによる弊害、ゼロにするためにはどう考えるべきかのポイントを紹介したいと思います。

 

こんな人向けの内容
  • 身体拘束が何かを知っておきたい。
  • 身体拘束が介護にどんな影響を与えているのか考えたい。
  • 現場で身体拘束を減らすための情報がほしい。

身体拘束とは

身体拘束とは書いてその通り、「身体を拘束して自由を奪うこと」という意味になります。介護の現場では主にミトンを使用、医療現場ではベッドに四肢を縛り行動を抑制するというのがよく認識されていることでしょう。

それらも拘束になりますがその他に薬の使用やちょっとした言葉も身体拘束に該当する行為になる場合があります。介護や医療現場では現在、身体拘束の種類を分けて行く用語として「スリーロック」という言葉が使われています。

 

  • フィジカルロック

ミトンの使用やつなぎ、抑制帯を使用して物理的に身体の動きを制限すること。よく知られている身体拘束はこれ。

4点柵の利用や鍵をかけて出られないようにするといったこともここに該当します。

  • ドラッグロック

薬を使って行動を抑制し制限する事。夜間徘徊が酷い場合に本来は必要でない眠剤や向精神薬、安定剤を用いて強制的に抑制する場合にこちらが該当します。

  • スピーチロック

言葉によって行動を制限すること。主なわかりやすいところでは「どうしてそんな事するの!」「同じこと何度も聞かないで!」などの怒りに関する言葉が該当します。

 

物理的に拘束するフィジカルロックは具体例が多く非常にわかりやすい反面、残りの2つ、特にスピーチロックに関しては線引が非常に難しくなっています。拘束になるのかならないのかのケースが非常に多く、人毎や施設により異なっているのが現状となっています。

覚えておくべきポイント

身体拘束はスリーロックと言う3種類に分類される!

  1. フィジカルロック…物理的に行動を制限するタイプの拘束
  2. ドラッグロック…本来不要な眠剤や安定剤で行動を制限するタイプ
  3. スピーチロック…言葉によって行動を制限するタイプ(判断基準が難しい)

 

身体拘束の基本3原則と適用時の対応

ここでは例外的に身体拘束が認められる場合の要件と行った場合にやるべきことに関しての事柄を説明していきます。

例外的に認められる場合の身体拘束3原則

基本的に行ってはいけないとされている身体拘束ですが、厚生労働省が定めるやむを得ないとされる一定の条件を満たした場合にのみ認められる場合があります。

  1. 切迫性…利用者本人もしくは他者の生命または身体の危険が著しく高い場合。
  2. 非代替性…身体拘束以外に変わる介護の手段が存在しない場合。
  3. 一時性…拘束が一時的な対処である場合。

以上の3点を完全に満たす場合になります。更に詳細な条件として、

  • 3つの条件を確認し実施されている上で満たしている場合に限り認められる。

とされています。これらの3つの条件は身体拘束の3原則と呼ばれています。

 

ただし、満たしたからやっても問題ない!というわけではなく、身体拘束を行う目的や内容・時間や期間を本人と家族に十分な説明を行い理解と了承を得ることが必要になります。

また「緊急時のやむを得ない場合の判断」に関してですが、基本的には委員会などを中心とした組織全体で検討し判断しましょう。個人での判断はNGです。

 

やむを得ず拘束した場合の対応

介護側には身体拘束の実施に関する記録の作成が義務になっています。(詳細な状況や拘束解除検討・それに関する実施状況等)

やむを得ず拘束する場合、特に記録に関しては解除に向けての検討や実施に関してきっちり記録されていないと外部監査での大きなマイナス評価につながるので注意しましょう。

2018年以降「身体拘束廃止未実施減算」と言われる介護報酬の制度が改定され、拘束の有無関わらず廃止に関する取り組みが認められない場合は介護報酬の減算がされてしまうようです。

制度に関する情報はこちらを参照にしてください。対応する箇所はⅡ-⑥になります。

平成30年度介護報酬改定の主な事項について 厚生労働省

 

覚えておくべきポイント

例外として身体拘束が認められるのはやれることをやった上で以下の3原則を満たしたとき!

  1. 切迫性…本人か他者の命の危険が著しく高い時。
  2. 非代替性…他に代わりになる手段が存在しない時。
  3. 一時性…拘束が一時的な措置である時。

やむを得ず拘束を行う場合、本人や家族の理解と了承のもと、それに至るまでの経緯や目的や内容・時間・解除に関する検討や実施の記録を詳細に残そう。

身体拘束の捉え方と具体例

ここでは身体拘束にあたる具体的な例と何が身体拘束にあたるのだろうか?という事ちょっとした捉え方や考え方を紹介していきます。

身体拘束の具体例

【スリーロック系統別の具体例】

※やむを得ない場合の除く拘束等の条件は考慮していません。

1.フィジカルロック

  • 点滴や経管栄養チューブを自己抜去するためにミトンを使用。もしくはベッドに手を縛り付ける。
  • 身体の掻きむしりによる自傷行為を防ぐためにミトンを使用する。
  • 夜間帯のおむついじりを防ぐためにツナギ服の使用。
  • ベッドを4点柵で降りるための場所をなくす。
  • 立ち上がりを防ぐため椅子に固定させる。車椅子にY時抑制帯で固定する。

2.ドラッグロック

  • 夜間徘徊を抑えるため本来必要でない向精神薬や眠剤を使用し行動の抑制をする。

3.スピーチロック

  • トイレに行くために立ち歩く等の本来問題のない行動をこちらの都合で「待ってて」等の言葉で抑制する。
  • 「なぜそんなことをするの」「あれはだめこれはだめ」といった強く叱責するような口調や制限をかける言葉。

 

いくつかの具体的な例を挙げました。フィジカルロックに関しては外から見ても拘束していることが非常にわかりやすくなっている為特に問題ないかと思います。

ドラッグロックに関しては少し曖昧なところがありますが、本人が希望する場合は該当はしません。かなり難しい線ではありますが精神疾患や認知症で薬が処方されている場合があります。この場合基本的には該当することはないのですが、施設の場合において職員や看護師の報告次第で処方が増減することもありえます。(都合のいいように報告して増量もありうるということ)

スピーチロックは前述2つのロックよりも更に判断が難しくなってきます。先の説明でも挙げましたが、人によって捉え方が異なってくるというのが大きな要因です。自分ではそんなつもりで行っていなくても周りからはそう取られていないということが当たり前に起きるため線引が非常に微妙なところとなっています。

身体拘束の捉え方、身体拘束が起きる理由

では何が身体拘束に該当してくるのか?どうやって捉えていけばいいのか?

捉え方を考える上で最も簡単な方法が自分にされたと置き換えてみることです。その際自分やりたいことを仮置しておくと良いかもしれません。(必ずではないですが)

先程の具体例を自分に当てはめて考えてみましょう。

  1. 椅子や車椅子にY字帯で固定される。
  2. 不要な眠剤や安定剤を服用させられる。
  3. トイレに行きたいのに「待ってて」と長い時間待たされる。

 

自分がされたと考えたらどれも嫌なことですよねフィジカルロックに関しては実際に自分で体験してみることも勉強になります。ミトンもそうですがY字帯の拘束もかなり窮屈で不快です。

 

これらの身体拘束はなぜ起きていくのでしょうか。安易に不要な身体拘束がされてしまう背景にはいくつかの理由があります。

  • 慢性的な配置人員不足。

基本的な職員に対する利用者の割合は現在1:3となっています。この計算だと日中は100人に対して一般介護看護職は最低20人以上はいないとだめなわけです。(基準で言ったらそれでも少ない)しかし施設によってはそれを圧倒的に下回ることがほとんどである場合が多いです。筆者は実際に日中1:20位の割合で仕事したことも経験としてあります。夜間に関しても基本的には同様です。

  • 介護職員の知識不足

施設にもよりますが独自の介護マニュアルが存在しない場所が割と存在します。更に上記の人員不足による職員指導が適切に行われないまま現場で戦力として動かされる。そんなことが日常的に起きています。余裕のない業務体制が結果として知識や技量の不足を招き事故や拘束につながっていくケースが多いです。

 

他にもありますが主なところではこの2点でしょうか。現状から言ってしまえば職員1人で利用者7~10人というのは当たり前のように遭遇する光景でもあります。そんな中で全員を100%安全に過ごしてもらうということが可能なのでしょうか。

極端な話として誰かをトイレ介助すればその間他の9人はフリーになるのでその分リスクは増大します。人が回らなければ人材育成も回らない、そういった負のスパイラルの中でもどうにかして安全を確保するために…ということで拘束が起きていく。知識が不足していれば拘束で安全を確保できるのは非常に「楽」なことなので拘束が増えていくわけです。

覚えておくべきポイント

身体拘束のかんたんな捉え方は自分に当てはめてみると案外楽。

自分がされて不快なことや言葉はそのまま拘束につながる可能性あり!

身体拘束が抱える問題点と改善のポイント

本来身体拘束は「事故防止」を目的としてされてきた手段です。実際身体機能が低下してきている高齢者はちょっとした転倒で重症を負い寝たきりになるといったことは珍しくありません。では身体拘束を減らしたりなくしたりすればよいのか。身体拘束が抱える問題点とともに改善のポイントを考えてみましょう。

身体拘束が抱える問題

身体拘束は安全のために必要であるという話を聞きますがそれ自体にももちろん問題はあります。その大きなものの1つとして利用者の人としての尊厳を侵害する、精神的な負担を与え人として扱わない行為であるとされているためです。

そういった問題点は厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引」にも弊害として記載されています。

参照 身体拘束ゼロへの手引

弊害について簡潔にまとめると以下の通りになります。

  • 身体的弊害

拘束により長時間同じ姿勢が続くことによる褥創といったリスク。動かないことによる拘縮の進行や運動不足による食欲の減退、免疫機能の低下による感染症のリスク増大。

  • 精神的弊害

人としての尊厳の侵害、また拘束による活動の低下により認知症状の進行、せん妄の可能性。

  • 社会的弊害

身体拘束を行っている施設に対し社会的な不信感を引き起こす可能性。上記心身機能の低下によるQOL(生活の質)やADL(基本的な生活レベル)の低下に伴う病状の進行で家族の負担が増加する。

 

以上を考えていく上で身体拘束は介護の目的である生活の質の向上をいうものと真っ向から反していることがわかると思います。

1度拘束を行ってしまうことで弊害により動作レベルや生活レベルが低下する、認知の進行からせん妄などの新たな問題が発生しますます拘束しなければ首が回らない状態になっていくという負のスパイラルが生まれていくことも大きな問題と言えます。

改善していくためのポイント

ではどのようにして身体拘束を少なくしていけばよいのでしょうか。日々の業務で精一杯でそこまで手が回らない・暇がないというのが現状かもしれませんが、その考え自体はやらないいい訳であることがほとんどです。改善や拘束の解除は単独で考えるものではないので委員会などの組織を中心に大きな単位で考えていきましょう。

施設勤務の際実際に解除に至るまで行った考え方や手順をポイントごとに事例とともに紹介しますのでご参考ください。

事例

昼夜問わず車椅子、ベッドからの立ち上がりが顕著。昼は食事以外はほぼ常時Y字抑制帯使用。センサーマット使用も頻回で対応しきれない為夜間は睡眠薬服用。

オムツ使用、なんとか立ち上がり維持はできるときもあるが自力歩行不可。重度認知症。居眠りも非常に多く、日中帯口癖のようにトイレ訴えがある。

徘徊ではないですが昼夜問わずおもむろに立ち上がり歩こうとしてしまうパターンの方です。認知も酷く意思疎通が困難で初対応は昼は基本抑制帯、夜はセンサーと睡眠薬服用でそれでも駄目な際はベッドの降り口(足側)を上げてしまうことで降りにくい、降りることができない環境になっていました。また日中の居眠りも多くパターンとしては居眠りしている時以外は常にトイレ訴えというような状況でした。

 

この事例の場合、まず最初に注目したのは「トイレ訴えが非常に多い」という点でした。そこで1つ目の実践として以下を行い結果を得ました。

  • 実践 昼の間はとりあえず訴えに応じてひたすらトイレ介助
  • 結果 空振りがほとんどだが訴えは減り、解除中も立ち上がりは少なくなった。夜間帯は何も実施していないので概ね変化なし。

訴えが完全になくなったわけではありませんが減ったことで周囲に与える影響は少なくなりました。頻繁にトイレへ行くとこによる副効果なのか初期の頃よりも夜間の動きが少なくなった面もありました。

今度はこの結果をもとにユニット内で話し合いを行い以下のように対応を変更し結果を得ました。

  • 対応 トイレ誘導は当たりの多い時間帯に限定、それ以外は見守りのもと車椅子自走等の運動で気をそらしてみる。夜間はセンサー頻回の際にトイレ誘導を試みる。
  • 結果 一時期訴えは回数は戻ったものの立ち上がりは減少傾向。夜間帯に関してはトイレ誘導後はセンサーがなることが少なくなった。

全体を通した期間として約4ヶ月程度で初期対応から変化させて介助を行いました。これらの結果をもとに最終的には

  • 日中帯…普段のトイレ誘導以外に特定時間にトイレ誘導を行う。見守り車椅子自走などの運動を取り入れる。
  • 夜間帯…規定の時間帯にトイレ誘導もしくはおむつ交換対応を行う。

という対応方法に落ち着き、日中帯に関しては抑制帯は完全解除、夜間帯はセンサーマット+落下防止用マット使用で眠剤中止になりました。副産物としてですが立位が安定が向上したためトイレ介助の負担軽減とおむつ使用からリハビリパンツになりました。

 

この際実際にこれらの対応を行った基本的な考え方は以下のとおりです。

  • 最終的な問題のある行動(事例の場合は立ち上がりや頻回なトイレ訴え)は結果であってそれに至るまでのサインが必ずどこかにある。

→事例の場合は出る出ないに関わらずトイレに行きたかったのでひたすら訴え、聞き入れられないため自分で行こうとして立ち上がるという行動に出た。夜間帯に関しては日中の居眠りにより生活時間帯が逆転、トイレ訴えと複合してセンサー頻回という結果になっていた。

考え方を難しく書いているようにも見えますがちょっとしたことに置き換えてみると非常に簡単で、自分たちに置き換えるとこのような感じになります。

  • お腹が空いた(思ったこと)→ご飯を作る(過程)→ご飯を食べる(過程)→満腹になる(結果)

これを元に事例の場合の一連の行動を考えていくと以下のように予測できます。

  • トイレに行きたい(思ったこと)→訴える(過程)→聞き入れられない(結果)→行きたいので訴えるか立ち上がろうとする(過程)→聞き入れられないか強制的に座らせられる(結果)

一連の行動における結果と過程がループしていることがなんとなくわかると思います。

手法として行ったのは「問題となる行動に至るまでの過程を改善する」ということです。過程が変われば結果も変わってきますのでこれを行ってしまえばあとは試行錯誤の積み重ねになります。

 

改善する時の考え方とポイント
  1. 問題のある行動は「結果」なので改善するときは問題の行動までの思いと「過程」を予測しよう。
  2. 結果までの行動ができたら「過程」を改善して「結果」のデータを蓄積しよう。
  3. 蓄積したデータを元に「過程」部分を更に改善し、必要であれば別の余暇などの行動を入れてみよう。
  4. 2と3をを最良の結果が出るまで繰り返そう。

まとめ

ここまで身体拘束に関する情報やポイントなどをまとめてきました。厳しい内容になっておりますがポイントを抑えて考えていくことで時間はかかりますが徐々に改善の兆しが見えてくるでしょう。

介護報酬に関する規定もありますが、問題を解決していくことで結果的に自分たちの負担を減らす結果になって来ますので、職員全員で協力して改善に取り組んでいきましょう。

最後にこの内容が身体拘束解除の参考になれば幸いです。

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